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開発秘話シリーズ その5


前回のつづきです。


さて、ホールでサンプリングしたピアノ音を加工して、4台のブレッドボードのメモリにデータを投入して、鍵盤で弾けるようになった。


関係者を集め、試聴会を実施した。


「まるで風呂屋のピアノだ」と酷評された。


なぜか?


ホールの残響を含んだオフマイクの音で作ったからだった。残響があった方が良いと思って作ったが、楽器に入った残響は楽器としては異質だったのだ。当たり前のことだけど、やってみないとわからないものだ。


再度録音からやり直すことになった。


私は、楽器の試聴などに使う広めの社内のスタジオを独占して、そこで音作りをする事になった。


スタジオにグランドピアノ、KURZWEIL(カーツウェル)K-250A/DコンバーターとPDP-11の入ったコンピュータラック、ヤマハのグラフィックターミナル、SONYPCM-F1とベータマチック・ビデオデッキ、アンプを入れたEIAのオーディオラックとモニター用のヤマハのスピーカーNS-1000MNS-10M、そして4台のブレッドボードと試奏用の鍵盤を並べた。


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FM音源でエレクトーンの音作りをしていた音作りの師匠をリーダーにして、私のように電子楽器の各部門で音作りを担当していたメンバーが集まって「音作り委員会」と称するチームができた。今風にかっこよく言うと「クロスファンクショナル・チーム」だ。


ピアノの再録音はこのスタジオで、音作り委員会の手で行うことになった。スタジオにグランドピアノを置いたので、マイクポジションなど自分たちで何度も試行錯誤できるようになった。


スタジオとはいえ、ピアノの音を一音一音録る時はやはり周囲のノイズが気になるので、本番の録音は深夜12:00から4:00に行った。いつも商品開発のアドバイスをしてくれる地元のピアニストが付き合って演奏してくれた。音作り委員会のリーダーの奥さんがおにぎりを作って差し入れしてくれた。


録音が198592日深夜、それから2週間、スタジオに缶詰めになって音作りをした。914日に2回目の試聴会を実施。今度は概ね良い評価を得た。提示された課題に対応して、修正を行い、927日に3回目の試聴会。これでGOの評価を得た。


それから何人かのピアニストに試弾してもらい、タッチの音量のカーブやピッチの補正を行い、品質保証部門でチェックをして、117日に製品用のROM(音源LSI用の読み出し専用のデータメモリ)生産のためにデータ出しをした。


その間、私の次の音作りの仕事が決まっていた。それはチャーチモデルと呼んでいた「F-700」電子版パイプオルガンだった。


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パイプオルガンの録音(サンプリング)に8月に大阪シンフォニーホールへ、10月には名古屋の金城学園へ出かけていた。


つづく


【開発秘話シリーズ】

その1:【起業日記850日目(火):SY22とは何だ?】

http://kurakakeya.livedoor.biz/archives/52187157.html

その2:【起業日記852日目(金):電子ピアノの音作り】

http://kurakakeya.livedoor.biz/archives/52187388.html

その3:【起業日記853日目(月):ピアノのサンプリング】

http://kurakakeya.livedoor.biz/archives/52187406.html

その4:【起業日記854日目(火):音作りは試行錯誤の繰り返し】

http://kurakakeya.livedoor.biz/archives/52187483.html


2021/04/14